育成年代における日本とニュージーランドの違いーPYDA Workshopよりー

先日、Positive Youth Development Aotearoa というワークショップに参加してきました。Aotearoaというのはマオリ語でニュージーランドのことをいい、このワークショップは名前の通りニュージーランドのサッカークラブにおける育成年代についてでした。一言で言えば、育成年代の選手とのコミュニケーションについて学ぶワークショップだったように思います。

このワークショップを通して私はニュージーランドの育成年代が抱えている問題をいくつか発見できました。そして同時に、育成年代におけるニュージーランドと日本の構造や文化の違いに気が付きました。今回は、ワークショップを通じて感じた問題を紹介しながら、日本とニュージーランドの文化の違いについて、双方の国に対して伝えていければと思います。

はじめに伝えさせていただきますが、今回の問題点はあくまでワークショップを通じて感じた問題点でしかありません。私はまだニュージーランドでコーチをしていませんし、日本でも数年しかコーチをしていません。見えている問題は表面的なものばかりですが、それでも日本とニュージーランドの違いを知ることは面白いことでしたので、共有させてもらいたいと思います。

目次

ニュージーランドの育成年代が抱える問題

Christchurchに建設中のスタジアム。

はじめにサクッと、ワークショップを通じて感じたニュージーランドの育成年代における問題点をいくつか紹介します。

①モンスターペアレント

ワークショップを通じて幾度となく話題に出てきたのは、サイドラインで子供を見守る親に対する対応でした。日本に比べて積極性の高いニュージーランドの親は、時に攻撃性を増すことがあるみたいです。たしかに、育成年代の試合を見に行っても、サイドラインに立つ親が積極的に子供に声をかけているのが印象的でした。そしてそれが時に過激になってしまっていることを忘れてはならないし、そこが大きな問題点の一つであるように思いました。

②高すぎる子どものサッカー活動費

子どもがサッカーするために必要な費用が高すぎるという切実な意見です。しかし、クラブ側にとってもこれ以上安くすることは運営上できないという意見もあり、かなり根深い問題だと思いました。
他にもクラブ側の意向としては、First Kicks(サッカーを始める最初の年代(およそ5−7歳?))に関しては、無料で参加できる環境を用意し、サッカーへの窓口を広げる取り組みをしているとのことでした。
また、まだ競技人口の少ない女子サッカーにはもっと慎重に取り組んでおり、無料かつ、なるべくプレッシャーのない環境を目指して努力しているという声もあり、感心しました。

③送り迎え問題

後に詳しく説明しますが、ニュージーランドでは子どもの送り迎えは基本親が車でします。それによって、子どもの送迎が親にとってかなりの負担になっていること、親の事情によって子どもがサッカーに参加できないことが頻発していることが問題となっていました。これに関しては、僕がオーストラリアでコーチをしていたときにも全く同じ問題が発生していました。

ニュージーランドと日本の育成年代の比較

空から見たNZ。まだまだフロンティア。

ここからはニュージーランドと日本の育成年代を比較していき、それぞれの国に対して文化の違いを紹介していきたいと思います。

①日本では指導者のパワーがもっと強い

私が日本でサッカーをしてきた中で、サイドラインに応援に来ている親が問題になっていることはほとんどなかったように思います(あくまで選手として育ってきた感想として)。きっと日本人は海外に比べてシャイであることは間違いないですし、周りの目線や空気を重んじる文化であると思います。良くも悪くもこれが、サイドラインに立つ親にとっては「あまり目立つ行動は控えよう」という行動に影響していると私は思います。

また、日本では指導者(コーチ)のパワーがもっと強いです。チームのことはコーチに一任するという空気が日本は、より強いと思います。もちろんこれはいいことだと思いますが、これが行き過ぎると過度の理不尽やパワハラといった問題の引き金となっていることも忘れてはなりません。SNSによって世間からの監視が厳しくなったことによって、暴力は少なくなったものの、罰走や説教といった厳しい指導はまだまだ行われているのが日本の育成年代です。

日本とニュージーランドにおけるコーチと親の在り方の違いは、教育の違いが要因であることは明らかだと思います。


日本ではまだまだ軍隊教育の名残が強く残っています。厳しい練習や鍛錬、精神的な追い込みが人を強くするという教育理念が特にスポーツの場面では強いです。それなりに理不尽を経験してきたと心得ている自分としては「これはたしかに」と頷けることではありますが、頷きたくないと思っていることでもあります。理不尽な経験はたしかに人を強くするのかもしれませんが、そうした教育を経験していない人が立派に戦っている姿を私は海外でたくさん目にしてきました。そう考えると、「理不尽が人を強くする」というのは私達の思い込みでしかないのかもしれません。

一方で、ニュージーランドでの教育では「叱る」や「怒る」といったことができません。暴力はもちろん、怒鳴りつけたり一方的に怒ることは教育的にアウトです。そうなると、日本の育成年代にみられるような厳しい指導は行うことができなくなります。もしかすると、これによって親が指導の現場に侵入しやすくなっているのかもしれません。

②日本、ニュージーランドともに同じ問題を抱えている

木。

子どものサッカー活動費が高すぎる問題。日本でもニュージーランドでも、もしかしたら世界中で同じ問題が起きているのかもしれません。子どもをクラブに通わせる参加費だけでなく、スパイクや練習着など用具費も必要になります。ボール1つで行えるはずのサッカーが、実際には多くの費用がかかることは自身の人生からも強く思い知らされています。

すこし構造的な話をすると、日本ではクラブベースのサッカー環境に限らず、地域主体のサッカー環境も共存しています。小学生年代ではクラブ(Jリーグや社会人チームなど育成年代からシニアまで一貫して運営しているクラブ)の他に、主に同じ地域のこどもが集う少年団というチームがあります。ここでは主にボランティアで運営されており、コーチも子どもの親だったりします。少年団ではクラブと比較して活動費を抑えられる傾向がみられます。

同様に、中学から高校ではクラブと部活動が共存することになります。ニュージーランドのようにクラブと学校の部活を並行するのではなく、選手はどちらかの環境を選択します。一般的には、クラブのほうが環境は整っていますが、部活動が劣っているかといえばそうではありません。近年では、あえて部活動を選ぶという選手も増えており、これもまた日本独特の文化だなと思っています。

あわせて読みたい
海外を経験し客観的に振り返る「日本の育成年代のサッカー」について 世界的にも特殊な日本サッカーの育成年代のシステム 海外でサッカーをプレーするようになってから4年近くが経とうとしています。コロナなどがありトリッキーな数年でし...
詳しくはこちらでも書いてます。

ニュージーランドではクラブベースのサッカー環境となっています。地域に存在するクラブは育成年代からシニアチームまで一貫して選手を抱えています。このシステムの良いところとしては、一つのクラブに多くの年代を抱えていることから、年代を超えた関わりも持つことができます。実力が秀でている選手は、上の年代の練習や試合に参加させるということも容易にできます。また、長い年月をかけて選手を育成できるのでクラブとしてのアイデンティティを確立しやすいことも大きなメリットです。

こんなにも構造の違うニュージーランドと日本でも、子どもにサッカーさせることが大変という共通の問題を抱えていることはかなり興味深いと思います。たしかに理想を言えば子どもには無料(もしくは限りなく安い費用)でサッカーをできる環境があってほしいと思います。かといってクラブ側としても、コーチの給料や用具費やグラウンド代などお金が必要であることも事実です。


ちなみにニュージーランドではフルタイムでコーチ業をしている人の数はあまり多くありません。年代が下がるほどボランティアにちかい形でコーチをしています。
一方、日本では小学生年代であってもフルタイムの職業としてコーチをしている人が多くいます。私は日本で育ってきたのでこれが当たり前だと思っていましたが、世界的には珍しいのかもしれません。サッカー大国のスペインですら、ほとんどのコーチは別にフルタイムの仕事をしていて、コーチ職はパートタイムに近い形で行っている人がほとんどという話を聞いたこともあります。

おそらくこれは日本の勤務形態が原因で、残業の多い日本では、フルタイムの仕事とコーチ業の掛け持ちが厳しいのだと思います。残業もなく仕事の融通が利きやすいニュージーランドでは、時間の管理がしやすく、フルタイムの仕事とコーチ業の兼任を実現させているのだと思います。

③日本ではあまり馴染みがないのかもしれない送迎問題

木漏れ日。(Perfect Daysの影響)

日本ではニュージーランドと比較して、子どもの送迎問題はあまり聞かないように思います(もちろん悩みは尽きないだろうけど)。というのは日本は電車やバスなどの交通の便が充実しているからです。なにより、子どもだけで通学などをさせても安心な治安の良さと、文化が存在しているからです。日本では幼い小学生が電車に乗って小学校を登下校する姿も見かけます。実はこれは日本人にとっての日本の当たり前であって、海外では違っています。

ニュージーランドでは小学生などが子どもだけで行動している姿をほとんど見かけません。「はじめてのおつかい(Old Enough)」が海外でヒットした理由も、あんな幼い子供が一人で買い物している光景が、海外の人にとっては奇妙な事であったからみたいです。ニュージーランドでも14歳以下のこどもを一人で留守番させるということが法律で禁じられていたりします。このようなことから、必然的に子どものサッカーの送り迎えは親の仕事となります。上記でも述べましたが、ニュージーランドの働きやすさが、子どもの送迎を可能にしていることは忘れてはなりません。

もちろんここには治安の良さや文化だけでなく、ニュージーランドが車社会であることや、クラブの数の少なさなども影響していると思います。なんにしても、親の事情(送り迎えができない)によって、子どもがサッカーできる機会を失うことはとても残念なことに思います。

文化、教育、そして。

木。

2019年に海外に出てきてから5年近く経つみたいです(信じられない)。一度目にニュージーランドに来たときも、日本とは違うことがあり多くの発見がありました。そしてそれからオーストラリアとスペインを経験して、再びニュージーランドに戻ってきたのですが、まだまだ新しい発見が止まりません。一度目のときはどちらかといえば、選手としてよりピッチ上での違いに気がつくことが多かったです。しかし今では、それだけでなくクラブやコミュニティ、環境といったマクロの視点で違いを発見することに面白みを感じています。そうした違いは、サッカーに留まらず国や民族としての文化や慣習に紐づいていることがほとんどのように思います。今回のPYDAで感じた問題と、そこから見れる日本との違いは教育や土地、人口が強く影響しているように思います。

日本とは違い人口は少なく、地域社会であるニュージーランド。多民族国家で言語も飛び交います。一方で日本は日本語のみ。きっと言語による違いも多くあるはず。尽きることのないネタが転がっていて、まだまだ海外生活を楽しめそうです。頑張ります。

あわせて読みたい
1年で3カ国でプレーして感じたサッカーの「違い」について。 先週で2023ニュージーランド・ナショナルリーグが終了し、今シーズンの活動が終わりました。結果は10チーム中5位。最後の試合に勝てていれば3位でフィニッシュ出来てい...

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

Vegetarian x Athlete.
Football player in Australia(NPL South Australia).
Interested in Environment issues.

コメント

コメントする

目次
閉じる