「海外でサッカーを続けててすごいね」
先日、ニュージーランドでカップ戦を優勝し、友人から祝福の連絡を貰った中にこんな文章があった。もちろん嬉しくその言葉を頂戴したのだが、優勝から数日たち冷静に今の生活を見直してみると、本当にそうであるのか疑問なところでもある。
海外にいる＝好きなことに挑戦している
こんな先入観がどこか日本にはあるような気がしてる。少なくとも僕が日本にいた頃の僕の周りには漂っていたし、僕自身もそういったどこか憧れのようなものを”海外生活自体に”抱いていた。
こういった考えはどこから来ているのか。プロでもないにも関わらず未だに海外にてサッカーを続けていることに美学があるのか。日本で大学を卒業し就職する、親が望んでいたようないわゆる”マジョリティ”に背いた生き方に美学を感じるのか。はたまた、日本や日本語ではない”環境”に住んでいること自体に美学を感じているのか。
ニュージーランドに来てから２年間、ほんとうに色んなことがあった。
何も知らないままこの地にきてサッカーチームを探し出す事から始まった海外サッカー生活は、ニュージーランド優勝という当初予想もしていなかった結果をもたらした。これだけ聞けば一見華々しい海外生活に思えるかもしれないが、実際はそんなことはない。
１年前には、ビザの関係で働くことが出来ずに貯金を切り崩していくのみの生活を送っていた。チームメイトや周りの人々には助けられてばかりで、仕事もせずサッカーだけ生活している日々に肩身を狭くして生きていた。生きている心地があまりしなかった。ニュージーランドにきて２年にもなるが今も結局アルバイトという形でしかお金を稼ぐことが出来ていない。カフェで働くうちのメインジョブは皿洗いだ。
ニュージーランドのカップ戦決勝でMVPを取ろうがそんなのは関係ない。僕にはお金を稼ぐ力がない。
自分は果たして好きなことをして生きているのだろか。
僕は就職活動をしていた頃の自分が嫌いだ。
先日見ていたドラマSUITで超高層ビルが立ち並ぶアメリカの街並みが東京のビジネス街と重なり、「それ」を思い出した。なんかよく分からないんだけど、周りや先輩がそうしてきたから同じことをして、周りがすごいと思えるような企業に入ることが自分にとってのモチベーションで、立派な名の知れた大企業に入ることが親からのプレッシャーだった。
あの頃に自分には本当の意味で”自己分析”することが全くできていなかった。
別に就職をしたくなかったという話ではまったくない。今でも日本で仕事をしてみたいとは思うし、徐々にビジネス経験を重ねている同期をみていると本当に羨ましく思える。
朝井リョウさんの「正欲」を読んだ。
最近、世間で乱用されている多様性やダイバーシティ、マジョリティといった言葉の概念を突きさしてくれる小説だった。あのSUITでみた街中では、仕事が出来て、キャリアを積み、より高い年収を稼ぐことが美学とされている。偏見かもしれないがあの中に身を置けばそういった空気を周りの人から感じる人は少なくないと思う。少なくとも僕は東京のビジネス街ではそういった空気を感じ、まんまと吞まれていた。
ところが、ここニュージーランドの僕が住む町クライストチャーチにはそれがまったくない。だれが、どのような職種の人が、どれくらい稼いでいるのか僕がまだ知らないだけなのかもしれないが、そういったモノサシで人を測り合っている印象をうけない。どこか違う所に幸せを感じているみたいだ。
どっちが正しくてどちらかが間違いという話をしているわけではない。
どっちが自分にとって生きやすいかなんだと思う。マジョリティという言葉は結局その周りの環境でのマジョリティでしかないし、環境を変えればそれも変わってくる。
日本にいた頃は常に周りと比べられて生きてきた。「○○は△△銀行に就職したってよ」「あいつはもう年収○○だって」「○○たちそろそろ結婚するらしいよ」
結婚、年収、昇給…なにかと周りと比べ勝手にプレッシャーを感じ始める。
僕なんて25にもなってまだアルバイトをしている。結婚もしていない。仮に結婚をしたとしても子どもを産めるだけの経済力は皆無だ。日本にいたら、さぞかし生きづらそうなステータスだ。
海外にいると「それ」感じずに済む。
好きなことだけをして海外生活しているわけでもないし、なにか人生をかけて成し遂げようとしていてそのために海外にいるわけでもない。
そんなかっこいい理由は僕にはない。
もしかしたら、逃げているだけの海外生活なのかもな。それでもいいと思うけどね。
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