アマチュア選手に給料をもらう「価値」はあるのだろうか。

アマチュアのサッカー選手としての「価値」について

「今は無給でプレーをしているが、チームを変えれば給料をもらいながらプレーすることも出来る」

「プロリーグのないこの国(ニュージーランドで)、オーナーの立場になったとして、選手にお金を払いクラブに投資をすることの意義」

大きくこの2つから僕はアマチュアサッカー選手の価値は何だろうかと考えるようになりました。それは2022年にニュージーランドからオーストラリアに移籍して、サッカーの給料だけで生活を出来るようになった頃に、「プロサッカー選手でもない自分がこれだけの給料をもらう価値はあるのだろうか」と違和感を抱くようになったことが始まりでした。

また、本ブログの画像でも紹介している「NO WHERE TO RUN」という本を先月読みました。イングランドのセミプロフェッショナルのクラブのオーナーをしている若者が書いた本です。「オーナーの立場としてのフットボール、クラブ経営」が語られていてとても面白かったです。
この本を読んだことが、僕にアマチュア選手としての価値(VALUE)を再考させるきっかけとなりました。

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前提として、日本では想像しにくいかもしれませんが、海外ではアマチュアの選手であろうとお金をもらいながらプレーすることが可能です(日本でも増えてきましたが、海外ではもっと普及している)。国によっては、サッカーの給料だけで生活をすることもあります。アマチュア選手がプロ選手よりも給料が高いというケースもあります。

そんな中で、この世に五万といるプロサッカー選手になれなかった自分がプレーをすることで給料をもらう価値はあるのでしょうか。
あるとすればその価値は一体どこにあるのでしょうか。

目次

仮説1,「無給=選手としての価値がない」なのか

現在の僕らのホームグラウンドが最高すぎるので紹介させてください。

僕は現在、無給でプレーをしています。
一応、ニュージーランドのトップリーグであるナショナルリーグに出場しているクラブで、数年前にはニュージーランドの国内カップも優勝しています。しかし、僕を含めこのチームでプレーする選手はみな無給でプレーをしています。
サッカーとは別にフルタイムで仕事をしながらプレーをしています。

しかしおそらくですが、他のクラブに行けば給料をもらいながらプレーすることも可能だと思います。以前のオファーを参考にすれば、月に20万円ほどの給料をもらいながらプレーすることも出来ると思います。詳しくはわかりませんが、おそらくこのくらいの額、もしくはそれ以上の給料をもらいながら同じリーグでプレーしている選手は少なくないと思います。


では、無給でプレーをしている自分に選手としての価値はもうないのでしょうか。
そして、給料をもらえるクラブに移籍をした瞬間に、自分に価値が発生するのでしょうか。

そうだとすれば、それは一体何なのでしょうか。

仮説2,プロリーグのないこの国でクラブ経営で儲ける道はあるのか

ホームグラウンドがない僕らのクラブは、市の施設を借りている状況です。

このニュージーランドという国にはサッカーのプロリーグがありません。
トップリーグであるナショナルリーグに優勝しようとも、賞金としてクラブにお金が入ってくることはありません。

しかしこの国にはある大富豪がクラブを買い、選手や施設に多額の投資をしているクラブもあります。はたしてそれは、富豪によるただの娯楽に過ぎないのでしょうか。

それとも、アマチュアクラブであろうと正しく経営すればリターン(利益)が返ってくるのでしょうか。

クラブの収益源はどこから?

チェンジングルームにはウォーミングアップ場も併設されていて控えめに言って最高すぎる。

プロクラブの場合ですと大きく4つの収益源があると言われています。

1,チケット&グッズ

2,放映権

3,スポンサー

4,選手売買&賞金

これをこの国のアマチュアクラブに当てはめて考えてみます。

まずチケット&グッズによる収益はほとんどないとみていいでしょう。
ナショナルリーグであっても入場料を徴収しているクラブは見かけません。グッズ販売はありますが、サポーターの母数がかなり小さいので、グッズによる大きな売上は見込めないと思います。

放映権についてもほぼなしと見ていいと思います。
今季のナショナルリーグからはFIFA+にて全試合中継されていて、かなりの広告の数が埋め込まれていますのでニュージーランドサッカー協会の方に放映権が払われているかもしれません。しかし、それは運営費やアウェイチームの移動手当などに当てられる程度で、クラブの収益となるようなものではないと思います。

そもそもナショナルリーグは地域リーグ後の10週間のみ。それ以前の地域リーグは放映されないので放映権による収益もそこまで大きくはならないと思います。

FIFA+

スポンサーについてはアマチュアクラブであろうと協賛してくれる企業はあります。
クラブのグラウンドやユニフォームに多くのスポンサーマークがあることからも、スポンサーからの支援額は小さくはないことが分かります。クラブ経営に携わっていないので詳しくはわかりませんが、アマチュアクラブにおける運営費の多くは、スポンサーからの支援で成り立っているような気がしています。

最後に選手売買&賞金についてですが、あまり可能性は高くないのが正直なところです。
プロの世界には移籍金と育成費というものがあり、その選手が所属していたクラブにその選手を育成してくれた手当のようなものが入ります。日本の高校や大学でもプロを輩出すると、このような手当がもらえます。そしてアマチュアリーグしかないニュージーランドからもプロ選手は輩出されています。ただ割合でいうとかなり少なく、ほとんどのクラブが縁のない話だと思います。

賞金については前述した通り、ナショナルリーグを優勝したとしても賞金はありません。クラブにとって直接的な報酬はゼロです。ただ一つだけ例外があって、クラブワールドカップに出場するケースです。ニュージーランド代表のクラブに選ばれ、オセアニア大会を勝ち抜くとクラブワールドカップに出場することができます。アマチュアクラブであったとしてもです。クラブワールドカップに出場するとFIFAから一億円と各選手に400万円ほどの手当が出ると言われています。アマチュアクラブであったとしてもです。

ただこれに関してもほとんどのチームは縁がない話ですし、このクラブワールドカップというワンチャンスにかけて選手に多額の投資をするのは個人的にはナンセンスな賭けのように思えます。

アマチュアクラブの収入源は他にあるのか

AucklandCityのグラウンド。サポーターの人たちが会場設営していたのが印象的だった。

アマチュアクラブにとって収入源となり得るものは大きく4つに分けられると僕は考えます。参考にしやすいので、僕の住んでいる街のライバルチーム(クラブA)の取り組みを例に考えていきたいと思います。

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1,グラウンド代

ホームグラウンドとなる試合会場を人工芝or 天然芝で作り、自チーム活動時間外を他のクラブや団体に貸し出してレンタル料をいただくシステムです。クラブAではフルコートのサッカー場2面に加えて、フットサルコート2面も昨年完成させました。
そこでは日本で言うソサイチのようなものを開催できるので運営費として収入を得ることも可能になります。

ただ設営費がとてつもなく大きく、回収できるまでにはかなり長期で考えないといけないと思いますが。

2,アカデミー

高校生年代までのユースアカデミーです。アマチュアクラブにとって多くの収入源はここから来ると考えられます。いわゆる会費のようなものはクラブによって違いますが、「高単価✕多人数=高収入」という計算になります。

ニュージーランドではアマチュアクラブですが、ほぼすべてのクラブでFirst Kicksと呼ばれる5歳位の初期年代から、U-17もしくはU-19まで細かく年代が分かれています。合計すると数百人ものアカデミープレイヤーを抱えることになるので、クラブにとっての収入もそこそこ大きいものになることが考えられます。

参加費(会費)✕人数ー(コーチ費+道具代(グラウンド代は除く))=利益

このような公式が考えられて、クラブおけるアカデミー運営は短期的かつ直接的な収入源となり計算もし易いものであると思われます。


ちなみにスクールホリデー期間には数日間の短期キャンプを開催するクラブもあります。
参加費は半日で3,000円弱、一日で5,000円ほどです。オーストラリアでコーチをしていた頃に、このホリデーキャンプを運営していたのですが、毎日100名を超える参加人数でかなりの金額が集まっていました。

オーストラリアやニュージーランドでは子供がサッカーするための費用が高すぎるという問題がありますが、一方でクラブとしてはそのおかげでクラブ経営が成り立っているという側面があるのかもしれません。

3,留学制度

クラブAではクラブの敷地内に家を建てて、学校などと協力し海外から留学生を呼び込むプログラムを行っています。家に関してはトップチームの外国人選手なども一緒に住まわせることもできますし、シェアハウスが主流のニュージーランドではそれほど高い投資ではないのかもしれません。

留学プログラムとなると一人あたりの金額は大きいものになりますし、キャパシティこそ限られますが、利益率としては高額なものになりそうな気がします。

僕がスペインでプレーしていた(契約できずに帰ってきましたが)クラブも全く同じ取り組みをしていました。そのクラブはトップチームこそスペイン人主体で構成されているのですが、アカデミーチームはすべて外国からの留学生です。大量の家とレストランをクラブで抱え、世界中から選手を集め、プロ環境でサッカーを取り組ませるというシステムでした。

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参考までに、1ヶ月で2,500ユーロ=約40万円、10ヶ月で19,850ユーロ=約310万円です。
かなりの金額ですね。

そのクラブが留学アカデミーからの収益のみでクラブが成り立っていた事を考えると、留学制度というものはクラブにとって大きな収入源となり得るのかもしれません。

4,イベント開催費

クラブAでは海外からもクラブを集めインターナショナルな大会を開催したりしています。その際の運営費として収入が考えられます。大きなイベントは回数こそ限られますが、一回あたりの収入は大きなものになりそうです。

選手としてどこに貢献できるのか

他のクラブは皆ホームグラウンドとクラブハウスを所持していて羨ましい限り。

上記で考えてきたクラブとしての収入に選手としてどこに貢献できるのでしょうか。
仮に給料をもらいながらプレーをしているとして、そのリターンはどこに出来るのでしょうか。当たり前のことですが、選手に費やした投資よりも回収額が大きくならなければクラブ経営は成り立ちません。

前提として抑えておきたいのが、クラブのトップチームでプレーする選手は「クラブの顔」となります。クラブとしての印象や人気度を左右するのはトップチームの結果や振る舞いであると言っても過言ではないと思います。

前述した通り、チケット代などに関しては僕らに貢献出来ることはなさそうです。賞金に関してもクラブワールドカップを除いて、すべての大会で賞金は得られないので直接的な収入を得ることもできません。

クラブの顔として貢献しやすそうなのは、アカデミーの人気度です。
トップチームが強ければ、そのクラブのアカデミーに入りたいという子供が増えそうです。実際はクラブの育成環境などをしっかりと考慮してアカデミーを選ぶべきですが、そこまで考えられる親子さんは多くないと思います。

またニュージーランドではトップチームの選手がアカデミーのコーチをしていることも多いです。アマチュアならではの選手コーチの兼業ですが、憧れの選手から指導してもらえるのであればそのアカデミーを選ぶということも考えられます。

したがって選手として活躍することがアカデミー人気へと繋がり、アカデミーの人気が高まればクラブとしての価値も高まります。直接的で分かりやすい形で収入となるので、貢献度も比較的分かりやすいかと思います。

また、選手としてチームの成績に貢献し、リーグ優勝などの結果を残したとします。そうすればクラブは歴史としてその成績をずっと語ることができます。その成績はクラブの財産として残るため、そのために選手に投資するというのも立派な考え方だと思います。

イベント開催や留学制度、スポンサーなどについても同じことが言えるかと思います。
クラブの知名度や人気度が高まればその分、集客力は高まります。チケット代で収入を得られないため集客が必要ないかと言われるとそうではありません。

スポンサー企業などに協賛してもらうためには集客が不可欠です。

つまり、選手にはクラブの「広告」としての役割もあるということです。アマチュア選手だとしてもです。

「選手としてクラブで成績を残し、クラブの認知度や人気を高める。そうすることで、アカデミーの人気やスポンサー企業からの支援が大きくなる。」

上記のことに貢献が出来ているのであれば、それは選手として立派な価値を提供していますし、クラブが選手に投資(給料)をする意味が大きくあると思います。

では、給料をもらっていない選手(いまの僕)は、クラブにとって投資対象の価値がないということなのでしょうか。

逆に選手の立場として、給料の出ないクラブでわざわざプレーをすることの価値とは何なのでしょうか。

金銭的な価値だけがプレーをすることの価値なのか

これがプロなんだと。文化なんだと。鳥肌でした。

この問いに対する答えはYesであり、Noでもあります。資本主義社会において「給料=価値」というのは一つの答えであることは認めなくてはなりません。価値のあることにお金が流れてくるのがこの社会の仕組みなはずです。

しかし、Noの答えもあることも事実です。選手にとって目先のお金ばかりを追うべきではないこともあります。

例の一つとして数年前の自身の経験があります。

ニュージーランドで1シーズンを終えた僕は他のクラブからいくつかオファーを頂くことが出来ました。金額だけで考えればいまでも飛びつきたくなるようなオファーでした。しかし、僕はチームメイトやサッカーのことを考え、それまでのクラブで無給でプレーする選択をしました。その結果として、運も味方してニュージーランドの国内カップで優勝し、オーストラリアからのオファーを獲得しました。オファーの内容もかなり良かったです。

目先のお金に惑わされず、サッカーで結果を残したことで、自身のキャリアを築き、結果的に金銭的な面でもステップアップを果たした経験でした。

この経験から学んだことは、「クラブという環境を利用して、自分で価値を生み出すこと。」
これこそがアマチュアプレイヤーに求められているのではないかと、そう考えるようになりました。

プロサッカー選手になれなかったということは、サッカー選手という職業に就けなかったということです。それはつまり、サッカーをプレーすることだけで生活をしていくだけの実力がなかったということになります。そうであれば、アマチュア選手はクラブからの給料だけに依存すべきではないというのが、個人的な意見です。

しかし、それでもアマチュア選手としてプレーをすることの価値は存分にあると考えています。無給であったとしてもです。

クラブから直接的に稼ぐ(給料として)のではなく、クラブでプレーすることを利用して自分で稼ぐ力を身につける。

こうした考え方もあるのではないでしょうか。

幸い、世の中はテクノロジーによって価値の指標が変わりつつあると言われています。実力のあるものが必ずしも高い給料をもらう世の中ではなくなりました。格闘技界でも強い者ではなく、より注目度を集められる選手が稼ぐようになってきてるように思います。

自分の価値とは何なのだろうか

ここにメッシがいたらおれは泣いていたかもしれない。

大切なことは自分の価値を見つけることができるかだと思います。これが分かっていれば、たとえ無給であったとしてもプレーを続けることに大きな意味があると思います。
逆にその価値に気づけていない選手は、現在は給料をもらえていても、先はそんなに長くならないと思います。

幸い、僕はここニュージーランドでは外国人という立場です。
それもただの外国人ではなく、オーストラリアやスペインという数カ国でサッカーを経験してきました。数カ国でプレーをしたことによって、一度目にニュージーランドに来たときとは全く違ったサッカーの捉え方をしている自覚があります。

そしてもちろん日本のサッカー環境や文化を経験してきた日本語ネイティブの外国人です。
周りにいる人とは違った価値観や文化をもっています。

つまり、他の人とは違った価値を提供できるのではないかと考えています。
そこに自分の価値が存在するのではないかと考えているのです。

最後に、アマチュア選手としてプレーすることで給料をもらうことは何も不思議なことではありません。アマチュアであろうとお金をもらうだけの価値は存分にあると思います。

ただ、たとえ無給であったとしてもそれは価値がないということではないと思います。
その選手には違った方法で価値を発揮できるチャンスがあるのではないかと、そういう考え方もあるのではないでしょうか。
そして給料をもらうのであれば、クラブにどんな価値を提供できるのか、プロ以上にアマチュア選手は考える必要がある。

これが今回僕が伝えたかったことです。

正直に言って、ビザの関係で現地で仕事もできないなかでクラブからも給料を貰えないのはかなりしんどいです。貯金が減り続ける中で、サッカーのためにニュージーランドに来た意味なんてあるのだろうか。そんなことを考えてしまうこともあります。

ただし、これは自分のサッカー選手としての価値を見つけるための探求時間であるのかもしれません。少なからず、僕はまだサッカーを愛していますしまだまだ上手くなりたい気持ちが尽きないのでプレーを続けるつもりです。

そしてせっかくであれば、自分に出来ることをこの土地ニュージーランドで価値提供できたらと考えています。

まだまだ探求の旅は続きそうです。

最後に添えておきます。

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この記事を書いた人

Vegetarian x Athlete.
Football player in Australia(NPL South Australia).
Interested in Environment issues.

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